NO MUSIC FIGHTER

音楽の話と音楽じゃない話をしようよ

吉田ヨウヘイgroup 4th Album 「ar」 Release Event. @渋谷WWW X

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2017/12/20 wed
吉田ヨウヘイgroup 4th Album 「ar」 Release Event.
渋谷WWW X
open 18:00 start 19:00
¥3,300

出演アーティスト
  • CRCK/LCKS
  • People In The Box(インスト)
  • 吉田ヨウヘイgroup
  • 岡田拓郎(DJ)
  • 柳樂光隆(DJ)
セットリスト(People In The Box
  1. 矛盾の境界
  2. ベルリン
  3. 真夜中
  4. あなたの中の忘れた海
  5. 大陸
  6. 旧市街
  7. ヨーロッパ

公演の感想

ZEROツアーは近場の公演がなかったので、NAZOリキッド以来のピープル。
共演バンドは2バンドとも知らなかったのですが、WWWだしDJが岡田さんと柳樂さんだし、楽しいに決まってるので下調べもせずに足を運びました。

ZERO札幌でピープルボーカルの波多野さんは喉を傷めてしまったらしく、前日の夜にピープル公式から「明日はインストセット」という告知がありました。

声が出せないのはとても心配、とはいえ本当に申し訳ないのですが、ピープルがインストライブをやるなんてそうそうある機会ではないし、企画と考えれば絶対に面白いので、正直ちょっと楽しみにしていました。 あと、「歌えないからキャンセル」じゃなくて「歌えないから歌なしでやる」という姿勢が誠実だし、自分たちや他出演者や観客を過小評価していなくてすき。

仕事で行けるかどうか微妙だったけど、なんとかやっつけて当日券で入れてよかった。開演ギリギリに滑り込んで、一番手はCRCK/LCKS。

CRCK/LCKS

すっごく楽しかった。めちゃくちゃ好みでした。ドンピシャ。終演後流れるようにCDを買った。

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ジャケットも最高じゃない?

音聴いた瞬間に「なにこの人たちめっちゃうまくない?!」ってなってびっくりした。同年代かもしかしたら年下だけど、べらぼうにうまい。個々人のスキルが高いだけじゃなくてバンド全体として最高によくて、一瞬ぽかんとしてしまった。

終わってから調べてみたら、ジャズ界隈の若手有名どころが組んだバンドだったんですね。なるほど。ジャズの国内若手は完全に無知ですが、ちょー楽しかったから来年は掘り下げます。

で、うまかったんですけど、もちろん「技巧的に優れていただけ」なんてつまんない話じゃなくって。
一人一人の演奏自体は過剰ではない、抑制されつつ全体をみながらきちんとコントロールされていてクレバー、重すぎたり軽すぎたりしない適切さ、でも常に遊び心があってすっごくファニー。そうファニー、客の乗せ方もエンタテイメント然としていて楽しかったし、なによりステージの上の人たちがめっちゃ楽しそうに弾いてるのが最高!
楽曲は構成が複雑なものが多くて、あちこちに変拍子が仕込まれていて展開が早い。でもだからフックが入ると「くる!」って感じがして楽しいし、うまいこと掴んでのれたときはめっちゃ気持ちいい。それに「ここは四拍子でポップに気持ちよくいきたい!」みたいなとこはキッチリ押さえてくれててメロディも言葉のハマりも抜群で、単に技巧派が小難しい曲をやっているって感じじゃなくって変だけど踊れるポップネス、とても楽しかった。延々と飛び跳ねてしまった。

彼らのライブは通おう……来年のライブ行きます。

People In The Box(インストセット)

CRCK/LCKSが終わって転換DJ(これもとっても気持ちよかった)聴きながら水舐めてる間、開演前は楽しみにしていたインストピープルに対して「ああもったいない!」という気持ちが出てきてしまった。だってCRCK/LCKS、演奏だけじゃなくって歌もほんとかっこよかった*1。決められたメロディをなぞるんじゃなくって、そのとき鳴っている音と空間の熱量にのって、どんどん変化してゆく生きている歌!朗読的なアプローチもあって、ほんと自由で魅力的だった。自由っていうのは無軌道っていう意味じゃなくて、技量に裏打ちされた瞬発力っていう意味ね。
だからほんと、このときここで波多野さんの歌が聴きたかったな。こんな抜群のアクトの後なら、絶対に煽られていい歌を聴かせてくれたはずなのに。

そんな気持ちでしばらく待っていたら、いつものSEが響いて「矛盾の境界」から。もともとシャウトしか入っていない曲だから「歌がない」という感覚はない。攻撃的で不穏な音がこれまでの流れを叩き切るようでかっこいい。そのまま「ベルリン」「馬」と、リズムが複雑な曲を続けて。わたしがこの日のピープルでいちばんグッときたのは「ベルリン」、刻むリズムが気持ちよくって完全にインスト曲としてストレートに聴けた。聴く前は頭の中で歌をなぞるんじゃないかなって思ってたけど、そんなことなかった。そして歌がないと、低いところで歌いまくっているベースが前面に押し出されて……うっとりしてしまった。かっこいいなあ。

でも、4曲目の「真夜中」からやっぱり、「なんで今日歌がないんだろう」と悔しくなってしまった。

「真夜中」、難しいんですよ。正当に難しい。あんなにど真ん中でギターが鳴く曲ってピープルだと他に思いつかないんですが、そのギターに「もう一声」って思ってしまった。直前のCRCK/LCKSで、抜群のバランス感覚で弾かれた素晴らしいギターを聴いていたせいもあるかもしれない。
いつもは「波多野さんこのギター弾きながら歌ってるの意味わかんないな(※褒めています)」と思っていたんですが、この日の演奏を聴いていて、「その感覚は違うんじゃないか」という気がしてきた。「歌ってるのにあのギターを弾けるのはすごい」じゃなくって、「歌ってるからあのギターが弾けるんじゃないか」という気持ち。いや、プレイヤー側がどう認識しているかは知らないんだけど……わたしにとって彼は純粋なギタリストじゃないんだなあ、と。わたしにとっては主軸が歌の人なんだ、彼は。ギターと歌が相乗効果でうねって立ち上っていくような、歌があるからこそギターも映えるような、そんな側面があるはず。だからやっぱり、なんというか、「欠けている」と思ってしまった。

その感覚は、曲の性質に拠るところも大きいと思うけどね。だって「ベルリン」も「馬」も「あなたの中の忘れた海」も気持ちよかったし、「大陸」なんて笑ってしまった。
でもだって、どうしてもやっぱり、真夜中には誰かがギターを弾いていてほしいし、旧市街では角砂糖を献上したいし、ヨーロッパならきみの胸騒ぎが本当になってほしいじゃない!

セットリストが最高だったのもあって(なんて濃密でワクワクするセットリストだったろう!出演する他アーティストやイベントへのリスペクトが見えつつ、明確に自分たちを主張する尖ったセトリでキュンとしました)「真夜中」「旧市街」「ヨーロッパ」では歯ぎしりしてしまいました。頭の中で大声で歌っちゃったけど、脳内で再生されるメロディなんかじゃぜんぜん足りなくって。波多野さんの歌がだいすきだし、早くよくなってほしいと思いました。どうかお大事になさってください。

山口さんのプレイもMCもあんまりキレがなくて、ソワソワしてしまった……*2そんな中で抜群の安定感で歌い上げてくれた福井さんかっこよかったし、惚れ直してしまった。ベースのフレーズがまっすぐに届いてくるの、気持ちよかったな。

貴重な機会ではあったけれど、やっぱり歌のあるピープルがいちばんすき、と改めて思い知った日でした。そして同時に、それでも出演キャンセルじゃなくて演奏しきったピープルはめちゃくちゃかっこいいし、それを快諾した吉田ヨウヘイgroup超クールだな、とも思いました。波多野さんの早い回復を願いつつ、来年のEXシアターを楽しみにしています。

吉田ヨウヘイgroup 

ちょろっとだけ聴きました。2曲かな?こんな大所帯だと思っていなかったのでびっくりしつつ、余裕のある贅沢な音使いが面白かったです。ただ、もうちょっとこなれてきた方がわたしはすき。平日だったのもあって途中で抜けましたが、3~5年くらい経ったらもう一回観てみたいなあ。

 

 

昨日のこと。改めて。吉田ヨウヘイgroupのリリースイベントに、People In The Boxは僕が喉を壊してしまいインストセットで出演しました。こんな状態でも出演させてもらって、ありがたかったし、同時に、凄まじく興奮しました。このメンツだからこそ音楽的であれば大丈夫だという安心感もあった。そして、出演の選択は正しいとか間違ってるという以前に、ただの意思といえるものだっただけに、対応できるメンバーがいることの幸せを改めて噛み締めました。 ・ それにしても、吉田ヨウヘイgroupも、CRCK/LCKSも、それぞれ素晴らしかった。個々のプレイヤーとして成立した上で、大きなひとつの生き物や風景のようにアンサンブルを動かしていく、音楽の美味しい部分が集約されているような1日だった。 ・ 個人的に昨日はギタリストが特に輝いてた。西田くんも井上銘くんも吉田くんも、凄いプレイヤーで、ギタリストとして刺激を受けることってそこまでないんだけど、昨日に関してはビシバシ刺激を受けた。最高。 ・ 昨日ほど、じっくり話してみたい人ばかりの現場はなく、声が出ないことが、打ち上げられないことが、これほど悔しいことはなかった・・・・。 ・ 今日とて声、出ず。しかし、医師には必ず戻ると言われているので、それまでに歌えない分、これまでやってこなかったことに時間を費やしてみようと思う。

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ピープルは、どれだけシビアなことを歌っていてもユーモアがあるところ、俯瞰する視点があるところ、安吾が言うところの「フツカヨイ」的にならないところがすきなんだけど、この日のピープルは剥き出しの獣のようだった。そう、それこそ「ただの意思」のような。いつもはうまいことカモフラージュされて前面には出てこない厳しさや激しさが剥き出しで、血か悲鳴のようで、切り落とされた肉体の切断面を見せつけられているような。リスナーとしてもいろんなことを考えた夜でした。

*1:ちなみにボーカルの小田朋美さんはピープルがすきらしくて、MCで共演できて嬉しいとおっしゃっていました。ピープルの演奏中は、彼女下手袖でずっと観てました笑

*2:普段どおりっぽいMCでしたが、探っているというか気を使っているというか、不自由な感じがした。だからこそ、EXシアター告知の「彼(波多野さん)が歌っているところを観にきてください」という言葉にグッときました。