NO MUSIC FIGHTER

音楽の話と音楽じゃない話をしようよ

Quiet Hill 2017 “SOLO PIANO CONCERT”@浜松市天竜壬生ホール

テントとオーナメントの並ぶ外の景色も、硝子張りのホール自体の美しさも、ステージの炎と光のゆらぎも、音と組み合わさって。
和やかで美しく、しかし不思議と高揚するイベントでした。

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2017/10/9 mon
Quiet Hill 2017 “SOLO PIANO CONCERT”
at 浜松市天竜壬生ホール
open 15:30 start:18:00
¥5,500

出演アーティスト

原田郁子高木正勝という組み合わせ、かつ二人ともグランドピアノのソロセット、という貴重な条件が重なった公演だったので、浜松まで足を延ばしました。
素晴らしい公演でした、行ってよかった。
やっぱりピアノという楽器がこの世で一番好きだなあ、としみじみと思わされた一日でした。ピアノが好き。好きです。

ライブの感想

かぶりつきで観ていて細かいことは覚えていないので、簡単な感想だけ。

頂主催のBOOM BOOM-BASHの企画イベントだそうです。
浜松は楽器メーカーの本社が集中している地域*1なので、その場所で好きなピアニストの演奏が聴けるのは嬉しいな、と思いながら会場へ。

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開場は15:30でしたが、疲れ果てていた*2わたしは限界までホテルでのんびりしてから向かったので、着いたのは17:50くらい。
ホールの周辺は芝生が植えられたちょっとした広場になっていて、いくつかの出店が並んでいました。コーヒーとかハーブティーとか、ベジタリアン向けのカレーとか。この日の晩ごはんは絶対さわやかでげんこつハンバーグをたべると決めていたので買いませんでしたが、カレーおいしそうだったから食べたかったな。頑張って起きて15:30には行くべきだったか……。

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出店の雰囲気だけ楽しみながら、硝子張りが印象的な建物の中へ。

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チケットをもぎってもらって二階へ上がると、エントランスにはGOMA氏の絵画が展示されていました。鮮やかな点描の抽象的な世界。開演前はザッと見ただけですが、原田さんの演奏の後にけっこう長い休憩があったので、そのときにじっくり見ることができました。

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ポップな色づかいと目の回るような曲線。
直線がほとんどなくて、ぐにゃりと円を描いて回っていくイメージ。じっと見ていると絵が動き出して回り出しそうな感じがあります。目を閉じても頭の中に絵画の残像が残るような、目を離しても内側に残り続けるような感覚が印象的でした。

エントランスを抜けて入ったホールは、小さめの綺麗なホール。椅子の座り心地もいいです。
ステージ中央にはグランドピアノ、背景には羽のような透明な管で構築されたオブジェ。そしてピアノを囲うように、無数の蝋燭がちらちらと光って揺れています。お椀型の美しい容器に入れられて、ちらちらと揺れる火。最初は火じゃなくて火っぽいライトかなと思ったのですが、光の揺らぎ具合がどう見ても偽物じゃなくて本物。きれいでした。「消防法などのさまざまな条件を乗り越えて(原田さん談)」美しい情景を作ってくださった方々に心からの感謝を。

原田さんも高木さんも、同じピアノを使って演奏しているのに、まるで違う音がして、公演中何度も何度もハッとする瞬間があった。原田さんの演奏は子猫が遊ぶような音、軽やかで邪気がなくどこかやわらかく、それなのに唐突な休符で突き放される瞬間の断絶が印象的。遊んでいたおもちゃを不意に手放して、それ以降は見向きもしないような。一方で高木さんの演奏は相変わらず目まぐるしく音が溢れて洪水のよう、こちらに思考する余地を残さないような圧倒的な音数と展開に飲み込まれて、知らない場所に連れていかれるみたいだった。
高木さんは先日のYMENEのアンコールで演奏されていた、風か獣のような、山そのもののような楽曲を始めとする、ここ最近のスケッチのような楽曲をたくさん演奏されていて、「あ、ちがうステージに移ったんだ」というような印象を受けました。それは変わってしまったとかランクが上がったとかそういうことではなく、なんだろう、うまく言えないけど……現実とされている社会からまた一歩遠ざかった、あるいは本質に近づいた、より抽象的になった、純度が増した、そんな印象。この日はお二人ともよくお話しをされていたのだけれど、その際に高木さんは「全体性」のお話しをされていて、それがそのまま音になっているようだった。言葉で聞くより、解説を読むより、音を聴いて音に触れて目を閉じて身を任せて味わうだけで、それだけでその感覚に触れられるようでした。
あと印象的だったのは、彼の代表曲である「Girls」。フロアのリクエストで最後に弾いてくださったのですが、その音色がYMENEとは全く違う響きで、不思議な感覚でした。YMENEは死に近いというか、「Girls」の美しい音色もどこか影を帯びた少しこわいものに聴こえたのですが、この日の「Girls」はもっと原始的というか、……うーん、やっぱりうまく言えないなあ。影があるにはあるんだけど、「この部分が影になっています」というパッキリした感じではなくて、全て混ざっているような、善悪ではないもののような、そんな感覚でした。彼の演奏に対する感想は、いつもどうしても抽象的になっちゃうなあ。

アンコールはお二人の連弾。
これが本当に素晴らしかった。

お互いが鳴らす音に沿って掛け合うように鳴らされた曲も、ステージとフロアで旋律を追いかけ合った曲も、フロア中が獣の鳴き声で吠える中(笑。あんな現場初めてだ~)演奏された曲も、どれも奇跡のようでした。
さっき書いた通り、お二人の演奏は本当に、「同じピアノで弾いてるんだよね」と何度も確認したくなるくらい全然違う音がするのだけれど、連弾している時間が長くなるにつれて、その境目が徐々に溶けていくようで、お互いがお互いに影響されてうねっていくようで、メビウスの輪を滑っているみたい、夢のようだった。

 

会場も出店も展示もステージセットも演奏も、なにもかも、この日ここにいなければ触れることができなかったと言い切れるものばかりで……印象的な公演となりました。
浜松、遠かったけど行ってよかった。そう、浜松という場所、天竜川の近くという場所、それがまたよかったんだと思う。わたしは日中自転車で天竜川の近くを走っていたので、公演中に原田さんが「天竜川の、人の手が入っているようで入っていないような、東京だったら建物を建てちゃうような空間をそのままにしちゃうような、なんともいえない贅沢な感じがすごく好き」とおっしゃったとき、めっちゃ「わかる!」となっていました。天竜川、すごかった。自転車すきなひとは川沿いを走るといいと思う。

演奏がいいのはもちろんなんだけど、単純に演奏がいいだけじゃない、いろんな要素が完全に噛み合っていた、忘れがたい夜でした。行ってよかった。音も絵画も空間もすべて、こころに沁み入るようでした。

*1:ヤマハとかカワイとかローランドとか、錚々たる大手メーカーが浜松に本社を置いています。ある種楽器の聖地ともいえる場所です。

*2:自転車で東京から浜松まで行ったので。自転車日記はまた今度書きます。