NO MUSIC FIGHTER

音楽の話と音楽じゃない話をしようよ

坂本美雨 with CANTUS|Special Live 〜 Sing with me @TOKYO FM HALL

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2017/01/28 sat
坂本美雨 with CANTUS
坂本美雨 with CANTUS Special Live 〜 Sing with me
at TOKYO FM HALL
open 16:30 start 17:00
¥4,500

ゲストアーティスト

  • 徳澤青弦(チェロ)
  • 根本理恵(ヴァイオリン)
  • 青木隼人(ギター、他)
  • haruka nakamura(ピアノ)

セットリスト

第一部
  1. The Kiss
  2. Whe you wish upon a star
  3. When She leaved me
  4. ダニー・ボーイ
  5. メトロポリタン美術館
  6. いにしえの子守歌
  7. 遠い町で
  8. ブラームスの子守歌
第二部
  1. 鬼のパンツ
  2. The NeverEnding Story
  3. ノスタルジア
  4. The Water is Wide
  5. Dream
  6. The Other Side of Love
  7. 星めぐりの歌
  8. pie jesu

ライブの感想

不思議な感覚、これまで経験したことのないライブでした。
歌や演奏は単純に素晴らしく心地よかったのですが、それ以上に、隅から隅まで「この場にこの音楽を聴きに来る人たち」のことが考えられた企画設計に惹かれました。ライブに行ってこんなにやわらかい気持ちで帰路についたの、初めてかも。

このライブに足を運んだきっかけは、アルバムのサウンドプロデュースを務めたharuka nakamuraさんと、チェリストとして参加されている徳澤青弦さんが好きで。また、先日パフォーマンスを観て心を揺さぶられた「仕立て屋のサーカス」のスズキタカユキさんが衣装を担当していると聞いて、この公演のタイトルに冠されている『Sing with me Ⅱ』を購入して。それがとてもよかったから直前になってチケットを取ってフラッと観に行ったのですが、音楽が素晴らしかったことはもちろん、非常に得難い経験をした気がします。

まず、ホールに入ると子連れの方がたくさん。
わたしは基本的にサポートのお二人の名前でホイホイやってきただけの客だったので、あんまり事情を把握していなかったのですが、この日は「ぜひお子さんを連れてライブにいらしてください」との呼びかけがあったみたい。坂本さんご自身が、お子さんが生まれてからライブに行く機会が減ってしまったらしく、音量が大きくなくて子連れでも楽しめるライブを企画されたそうです。『Sing with me』自体もコンセプトは「子守歌」だったみたい。

ホールの手前にある会議室は「赤ちゃん部屋」とされていて、おむつ交換や授乳が可能。ライブ中に大泣きしちゃった場合の一時退避場所としても使える。

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しかも「赤ちゃん部屋にいるときに好きな曲が終わってしまったら悲しいから」と、セットリストが貼りだされている。でもネタバレが嫌な人もいるから、白い紙でカバーをかけられている状態。見たい人だけ見られるようになってる。
赤ちゃん部屋についてはライブ中に告知もあったのだけれど、そのときの告知の仕方も丁寧だった。「赤ちゃんが泣いちゃったりしたら使える」と伝えつつ、「泣いたらフロアを出なくてはならない」というプレッシャーを与えないためだと思うのだけれど、「子守唄として作った作品だから、赤ちゃんの泣き声があってこそ成立する」「歌うことで”よし、この子を眠らせた!”みたいな展開にならないかなって楽しみにしてる」といったフォローも入って。実際、聖歌隊と坂本さんの透明な歌声の中に、赤ちゃんの泣き声や小さな子の声が混ざって聴こえるのは、とても幻想的で美しかった。慈悲とか慈愛とか、そういったものを感じる美しさ。

ロビーでは代々木上原(だったかな)のカフェが出店していて淹れ立てのドリップコーヒーを楽しめたり(飲んだ。酸味少な目のスッキリとした味でおいしかったよ~)、ちょっとしたお菓子が売られていたり。
入口ではベビーカーの預かりサービスもあった。

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ライブといえば「酒+煙草+騒音+ガラの悪い人々(自分含めてね)」という光景が大多数で、そんな場所に小さい子を連れてくるのは嫌だったり難しかったりすると思うけれど、これなら小さい子も連れて来れるよね。すごい。
「子どもができたから我慢しなくちゃいけない」じゃなくって「子どもと一緒に楽しんで息抜きできる」場所として、極めて健全に機能しているなあ、と思いました。小さな子がぐずっても破綻しない、むしろそのことによって完成する音楽を中心に据えることで、こんなに「小さな子どものいる親」が、そして「子どもがいるわけではない大人の個人としての客」が、同時に楽しめる空間が作れるなんて。最初にも言ったけれど、音楽はもちろんだけれど、公演の企画デザインが美しくてグッときました。こういう公演がもっと増えたらいいなあ。

 

そう、音楽自体も気持ちよかったなあ。

最初は青弦さんと坂本さんの2人だけ、暗めの照明に照らされて、緊張感のある静かな始まり。でも、それ以降は、聖歌隊CANTUSの方々とのやわらかくシンフォニックな歌声で。
第一部は歌だけで、第二部は弦楽器とピアノも参加した編成で。どちらも聴き入ってしまった。どれも惚れ惚れとしてしまったのだけれど、自分にとって特別な曲である「THE NEVER ENEDING STORY」や(坂本さんがカバーされてたんですね、知らなかった。ネバーエンディングストーリーは、たぶん初めて好きになった映画で、原作も含めて大好きなんです)子どもの頃大好きだった「メトロポリタン美術館」、ハイテンポで短いある意味で大変パンクな「鬼のパンツ」とか、とっても嬉しかったし楽しかった。
でも、一番記憶に残っているのは、やっぱり「The Other Side Of Love」。弦楽器の絹を紡ぐような繊細な音、harukaさんのピアノの静謐で硬質な響き、坂本さんの聖歌隊の透明な歌声とが相まって、本当に素晴らしい空間でした。やわらかくて細い生成り色の繭みたいな、優しくて暖かい情景だった。『Sing with me Ⅱ』のトラックももちろん素晴らしいのだけれど、あの瞬間の音が手元に残ってくれたらどれだけいいだろうか、と終わった後に思ってしまった。でも、あの場にしか存在しない音だったから、余計に美しかったのかもしれない。

ロビーでドリップコーヒーを飲み、harukaさんのアナログ盤を購入して、家に帰りました。アナログを聴ける環境はないから、聴くのはCDだけなんだけどね。

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とにかくよい日でした。こんなライブもあるんだなあ、知らないあたたかいものに触れた気がして、しあわせな日になりました。