Peple In The Box|Tour NAZO~激歪~@LIQUIDROOM
いい意味で裏切られたライブ。全然ネタじゃなかった。素でいいライブでした。
ずいぶんと時間が経ってしまったので、簡単な感想だけ。
2017/10/18 wed
People In The Box
「Tour NAZO」~激歪~
at 恵比寿LIQUIDROOM
open 18:00 start 19:00
¥4,000
セットリスト
ライブの感想
東名阪の三本、それぞれ異なったコンセプトでライブを行う「NAZO」ツアーの東京編。全角アルファベット表記にすごく違和感があるんだけど、たぶんこれ全角じゃないとだめなんだろうなあ。
東京のコンセプトは「激歪」、すべての楽曲を歪んだ音でリアレンジして演奏するというもの。ちなみに来場者には耳栓が配られます。
そんな告知がなされていたので、もうネタしか想像していなくって(笑)大笑いしながらはしゃぐぞ!という気持ちでいたのですが……全然ネタじゃなかった。歪んだでかい音鳴らして騒ごう!という単純な形ではなくて、きちんと楽曲を分解して再構築して、歪んでいる必然性がみえる演奏。配布された耳栓はパフォーマンスの一種だったのでしょう、耳栓しなきゃいけないような痛い爆音でもなく、純粋にリアレンジされた楽曲群を堪能できたし、ライブとして心から楽しかった。
この日、ピープル初めての友人と一緒だったので、「初めてのピープルがこれでいいのか……?」と疑いながら会場へ向かったのですが、入口としてまったくおかしくないライブだったし、友人も楽しかったと言ってくれたので嬉しかったです。クリーンだろうが歪もうが、ピープルはピープルだな、と思えたライブでした。
客入りは八割くらいかな、開演三十分前くらいに入ったらまだ前の方に行けたので、ど上手前方で待機。ドラムがよく見える位置を確保できたので嬉しい。
配布された耳栓は一般的なよくある耳栓だったけれど、シールが貼ってあって嬉しかった。MCで語られましたが、メンバーが「シールとか貼ってあったらいいなあ~」と呟いただけで、スタッフさんの手によって即貼られていたそうです。さすが!使う気はなかったのでコートのポケットにしまいます。今はチケットと一緒に保管しています。
しばらく待って、ほぼ定時開演。
出てきてすぐに歪みきった轟音から、一曲目の「海はセメント」へ。
原曲がもともと静かに不穏な印象を与える楽曲だから、透明感がノイズに差し替えられても違和感はまったくない。ざらついた不穏な印象が強くなる一方で、音量が大げさでないこと、ノイズが過剰でないことに少し驚きました。もともと楽曲が持っている端正さ(だからこそ不穏な側面が強調される)は損なわれず、本当に、楽曲を違う角度から見るために最適化されているだけ、という感覚。
最初のうちは歪んだ音にテンションがあがって面白がる気持ちで聴いていたのですが、途中からだんだん、そういう「意識的に面白がろう」みたいな感覚が薄れていきました。というのも、演奏のすべてが「極端で変なことをして面白がらせる」という感じではなくって、純粋にそれぞれの楽曲のアナザーバージョンとしてよかったから。歪ませるといっても、不必要な騒音を鳴らすという形ではなくて、音を歪ませる必然性のあるアレンジがなされていました。MCでも言っていた(気がする)けれど、曲を一度解体して組みなおす、という作業が真摯に行われたのでしょう。ここでしか、今ここでしか演奏しないアレンジなのに、このたった一日のためだけに、カバーも含めて十五の楽曲たちと向き合ったのだと思うと……感嘆と敬意しかなかった。面白がる気持ちは前半であっさりと消えて、ひたすら耳を澄ましていました。
曲によっては「クリーンな音があるからこそ歪んだ音が際立つんだな」と思ったものもあり、そういった曲はアップテンポなものに多かったように思います。逆に、この日やると思っていたなかったクリーンで美しい楽曲の全編歪められた形は、鏡の向こう側の同一存在を見ているようで目眩がしたし、鳥肌が立ちました。「土曜日/待合室」の歪な和声が忘れられない。
あと、強く印象に残っているのは「ヨーロッパ」。
この曲はピープルのライブで初めて、殴られるような、あるいは刺し殺されるような、そういう衝撃を受けた曲なので、聴ければいつでも嬉しいのですが……歪んだギターで歌われる「ヨーロッパ」は、しかし妙に陽性な印象があって、不思議な余韻が残りました。最後の叫び声が奇妙に明るくて、なんだろう、祝福を受けたような気持ちになった。
あと印象に残っているのは「数秒前の果実」かな。cut the fruits!と歌っているくせに、果物を切るというより圧搾機で押し潰すみたいなアレンジになっていて最高でした。笑 普段のピープルは一撃必殺の凄腕の殺し屋みたいな感じだけど、この日のピープルは完全にブルドーザーでした。ありがとうございました。
後半のMCで山口さんが「アンコールない」と言ったのを聞いた瞬間は「えー!」と思ったのですが、そこから立て続けに演奏された5曲を聴いたら、不満なんてまったくなくなってしまった。あそこまで完全に完結以外なにものでもない完結を見せられたら、アンコールなんて蛇足だし今完全に満ち足りている、という気持ちになった。
そうそう、初めて観たとき以来、ピープルはドラムが大好きでドラムばっかり聴きがちなのですが、この日はベースに耳を奪われてしまった。歪んでいるのに太くメロディックで、軸として音のど真ん中にあって、弦が歌うたびに体が震えるようだった。
この日の物販、タオルが可愛かったので開演前にタオルを購入していたのですが……MCで山口さんが、ベースの福井さんはマスタード色のタンブラーを使用しているとお話しされたのを聞いて、終演後流れるようにマスタード色のタンブラーを購入してしまいました。健太はマスタード!(このセリフをフロアに復唱させていました笑)
個人的な印象としては、激歪というより劇歪という感じでした がむしゃらで無軌道で過剰なのではなく、適切に管理されて観せ方をきちんと考えられた、しかし完全に御し切られているのではなく、演出家の理性の端々から役者の熱が滲み出すような、そんな劇
— haru (@inai15) 2017年10月18日
途中いきなり真面目に語り出した(笑)波多野さんの、ピープルの音楽は咀嚼に時間がかかるものだから作りすぎなくていいし全く焦っていない、という旨の言葉を思い返しつつ、ピープルやソロの実験性と普遍性に想いを馳せつつ、近年ずっと考え続けている物語的消費と楽曲の強度のことを考えている
— haru (@inai15) 2017年10月18日
今日改めて思ったけど、わたしピープルの音楽がすきなことはもちろん、音楽に相対する姿勢がすきだし、観客を舐めないところがすきだ
— haru (@inai15) 2017年10月18日
いいライブでした。行ってよかった。
ちなみにこの日はMCで重大発表があって、そのひとつは「波多野さんがマウスピースを作る」ということ(笑)。顎にすさまじい力がかかっているから、と歯医者さんから勧められたそう。「重大発表!」と言いながらマウスピースの話をするので笑っちゃいましたが、わたしも以前歯を食いしばりすぎて歯がすり減ったりしたので(治しました)、早く顎が圧から解放されるといいですねと思いました。真面目に。
なお、ちゃんとした重大発表は、フルアルバムの発売告知でした。楽しみです。